星の砂・穴

 通り道に死んだ鼠が転がっている。首がなくて、一昨日は鼠の姿をしていた。昨日はその道を通らなかった。夕方から大雨で、明けて今朝になり、ようやく晴れ、それでもときどき降った。天気雨は好きだ。すいと歩いた。鼠のことを思い出して引き返す。ふやけて、ぶよぶよしているように見えた。鼠色。小さな手の骨が顔をのぞかせている。指の数がわかった。白くて小さくって星の砂みたいだった、小学生のころ行った沖縄でお土産に買ってきたのが実家にまだある。

 生きている鼠はこわい。死んでからの方がよっぽど見られる。祖母もそうだった。生前は、探るような目がこわかった。死に顔を見たら触れたくなった。床の間で張り詰めたまんじゅうみたいな頬をそろそろ撫でていたら、弾みで唇の端をぽんと、指で引っ掛けてしまった。はじまった開きは口角からのろのろ進み、またそろそろと動くのをやめた。中はがらんとして真っ暗。穴の中。唇があり、歯茎があり、口蓋があるそれは全くもって口なのに、どうしても穴だった。ただ、あいているだけの穴。

 飲み食い、発話、眠気、呼吸……人間が口をひらくときには必ず、なんらかの目的が含まれているものだ。しかし、こんなにも無意味な開口! 予想だにしない事態に焦り、穴を閉じにかかった。ひんやりした皮は私の指から逃げていき思うようにつまめない。まごつくうちに穴がまた開いていく。止まった。生きている間はまずできない形で、祖母の顔の穴は安定した。へんな顔? なのか? それさえわからない。なんの意思も認められない表情。まじまじと見た。