西早稲田二丁目花ごよみ

 まだ寒いころ、タンポポが咲く。ホトケノザが咲き、シロツメクサが咲き、ミモザを部屋に飾りたいとごねるうち桜の季節になる。アパートから出るとすぐ大きな桜の木があって、花見するのに勝手が良いと気づいたのは入居して五年目、今年の春になってからだった。少しは空を見上げればよかった。花びらを追って下がった視線にドクダミの花が応える。オオイヌノフグリも顔を覗かせた。道すがらポピーが揺れる、時計草が揺れる、近所のうちの枇杷の実が色づいている。もうすぐ雀たちがついばみにくるだろう。この辺は本当に緑が多い。住む人たちも緑が好きだ。いくつもの鉢植えをもつのが当たり前の町。スーパーの前で立葵が初夏を告げる。アイスを買って帰ると紫陽花が雨に打たれ、隣で向日葵が順調に背丈を伸ばしている。梅雨はどれだけ続くだろう。アパートの廊下にゆらゆら伸びた朝顔の蔓が掴まる先を探している。すぐそばにほっぽってある隣んちの自転車に巻きつけてやろうかとしばし思案し、そのまま部屋に戻る。