欠格

佐世子は右目が極端に悪い。ある日ベッドに座って向かいの壁の時計を見たとき、頭部がひとりでに右へ回転し、自分が左目の視野をフル活用して時刻を確認していることに気がついた。左目を手で隠してみると部屋は途端に輪郭を失う。立てた膝にかけている布団はカバーの細かい皺までよく見えるから、その先の景色のあいまいさが際立ち、ずっと遠くにある巨人の部屋を眺めているような気分になる。全部自分で選んで買い揃えたものなのに、自分の目で正確に見ることができない。右目だけでは私は私の部屋を認識しきれないのだと思うと彼女にはみずからの身体がふつふつと愛おしく感じられるのだった。